作曲家・中村節也のオフィシャルホームページ

◆新年の言葉 NEW!

  「宮澤賢治歌曲全集」の出版によせて

 このたび従来の「イーハトーヴ歌曲集」1.2.をさらに推敲改訂して、装いも新たに「宮澤賢治歌曲全集」として、新春より発刊の運びとなりました。ご存知の方もあると思いますが、賢治さんの歌は一般の歌のようなプロセスで作られたものではありません。口伝いによって受け継がれたきわめて特異もので、わらべ唄や子守唄とおなじように伝承されたものでした。楽譜で書かれたものではなく、それらの歌は家族や生徒たちによって伝えられ、没後何度かの全集出版のたびに楽譜化されたものなのです。そんなわけですから伝承者によって多少の相違はあるとおもいますが、私の編曲はできるだけ旧全集の資料を尊重しつつ、賢治さんが歌ったであろう旋律の幹を大切に、枝葉をつけるだけにつとめました。その点一般の「編曲」と違っているようです。できるだけ賢治さんの原曲を尊重して、余計な粉飾や誇張を避けるようにつとめました。
 この編曲はちょうど仏像を修復する職人のように、剥離した断片をつなぎ合わせるような作業でしたが、楽しい仕事でもありました。
 ユネスコに「世界記憶遺産」というのがありますが、賢治さんの歌はまさに「口承記憶遺産」ともいうべき貴重な作品とだと思います。全26曲 ( ヴァージョンの相違もあり、収録曲数は28曲) ありますが、今後これ以上の追加はないとおもいます。
 これで賢治さんの歌曲のすべてが完成しました。歌唱、演奏また研究などにご利用いただければ、編曲者として望外の喜びです。

◆近況 1.

 【 チンチン電車の通る街 】という合唱曲ができました。しかも作詞作曲です。 明治44年 ( 1911年 ) 東京市市電局が路面電車を開始してから、今年はちょうど創業100周年を迎えます。東京では現在唯一残った荒川線が、地域住民の足として親しまれています。
 混声合唱曲< チンチン電車の通る街 >は、私の住む街王子付近を歌った曲です。以前に読んだ堀江敏幸さんの『いつか王子駅で』という小説が、時折なぜか忘られない夢のひと齣のように回想するのです。題名もディズニーの『白雪姫』の主題歌『いつか王子様が』の洒落でしょうか。
 飛鳥山は古くから桜の名所、「アスカの小径」にはアジサイも多く、また可愛らしいケーブルカー「アスカルゴ」もできました。昨今は石神井川畔の桜も賑わっています。またハナミヅキ、イチョウの街路樹は心も和みます。大晦日の夜は装束稲荷の狐の行列,幻想的な広重描く榎に群がる狐の絵を想起します。王子稲荷の初午、王子権現に伝わる田楽舞や、都内に珍しい名主の滝など、都内にここだけ残った路面電車荒川線、早稲田三ノ輪間十二粁のうちの王子界隈篇、四季の移ろいをスケッチしてみました。

◆近況 2.

【 混声合唱による讃偈五鈔 】
 伊藤比呂美さんの口語訳になるお経から四つの偈を選び、「序」の結びにお勤めのはじめに唱える「開経偈」を引用しました。仏典に作曲したものでは、種田山頭火の「行乞記」がありましたが、そのときは山頭火がよく唱えていた「華厳経」を引用しましたが、今回は「序誦」が終わると、Namと唱えるリズムの下地のうえに緩急さまざまなテンポで「開経偈」が唱えられる多声手法です。そのあとにつづく「懺悔文」は前回の「華厳経」と同じ偈ですが、たとえば『我昔所造諸悪業…』のところは伊藤さんの訳では『わたしが これまでに なしてきた いろんなあやまちは…』のように平易でうつくしい口語訳です。お経の作曲はまだまだ続けるつもり、今回の讃偈五鈔の作曲でいくつかの書法を見つけたことは大きな収穫でした。

◆近況 3.

 【 作曲塾 】を開講して20年が過ぎました。なにをはじめるにも基本が大切です。ハーモニーの学習も独特な方法で進めてゆきます。たとえばギターを弾くけれど作曲がしたいという方には、個性を伸ばし、発展性のある方法で勉強していきましょう。私も頑張ります。ほかに編曲や日本伝統音楽に興味のある方もお気軽にご連絡ください。

(中村節也)

プロフィール

 東京生まれ、ヴァイオリンを小西市朗氏に、合唱理論を津川主一氏に、和声を弘田龍太郎、作曲と対位法を貴島清彦両氏に師事、YMCA芸術園、基督教音楽学校に学ぶ。NHK教育番組の『マイクの旅』の音楽担当を手始めに作曲に専念、コンセール・エフ入選、日本音楽コンクール作曲部門第一位入賞、九州ギター現代音楽祭優秀作 (2回入賞) 。文化庁舞台創作芸術奨励賞など、所属団体は宮沢賢治学会、日本作曲家協議会、日本子守唄協会など。

 少年期より星の美に憧れ、野尻抱影先生を敬愛し、のちに星の弟子として許されました。雀百まで踊りを忘れずといいますが、天文趣味はいまも変わらず天体望遠鏡を覗いています。戦時中ふと手に入れた『宮澤賢治名作選』に感銘して以来、賢治に関する「音楽」と「星」についての研究は現在もつづけています。
 
 教えを受けた諸先生をはじめ、先輩,友人知己は数えきれません。弘田ゆり子、ダン道子、榊原美祢子、井田一郎、塚谷晃弘、小原安正、高田三郎、山崎裕康、服部公一、柳沢剛、山田泉、石桁真礼生、内藤法美、越路吹雪、郷原吉太郎、郷原信郎、石田五郎、松村禎三、広瀬量平、岩間南平、石井好子、芦野宏、堀内環、朝倉まみ、渡部宏、原子朗、岩田安正、山口昭二、中村雪武、江尻栄、下野戸亜弓の諸氏、ほか大勢の方のご厚情はけっして忘れません。