作曲家・中村節也のオフィシャルホームページ

 混声合唱「チンチン電車の通る町」と「ピエロの真珠」をマザーアースか ら出版しました。「チンチン電車」は早稲田、三ノ輪間を走る路面電車の歌 です。もう60年の長い間住んでいる、王子界隈の四季の風物詩をうたいあげ ました。

 「ピエロ…」の歌はシャンソンの芦野 宏さんのために作曲した小品です が、芦野さんがお亡くなりになる少しまえに『いま「ピエロ」をすこしキー を下げて練習中です』との電話を頂きました。石井好子さんのあとを受けて 日本シャンソン協会会長に就任されたばかりでした。渋川の日本シャンソン 館へ行ったときに、「巴里の屋根の下」の楽譜( 80年まえの西条八十訳詞 ) を差し上げましたところ、大変喜ばれ午後のコンサートでさっそく西條さん の詩で歌ってくださいました。『懐かしの思い出に さしぐむ涙 懐かしの 思い出にあふるる涙 マロニエ 花は咲けど 恋しの君いずこ…』昔から口 ずさんだ名訳でした。芦野さんのベルベット・トーンにはおもわず涙が流れ ました。この楽譜はいまでもシャンソン館に陳列されています。今回「ピエ ロの真珠」は混声合唱に改編しました。作詩はアンパンマンの作者やなせ・ たかしさんです。


 男声合唱「ひとりぼっちじゃないんだよ」東日本大震災であの美しかった 三陸沿岸も大津波に呑まれました。そして罹災者のなかには親を失った多く の子供もいます。君たちはけっしてひとりぼっちじゃないという言葉そのま まがタイトルになって、それが応援歌になりました。フルートのオブリガー トが合唱をいっそう盛り上げることと思います。

 同じ曲集に茶木 滋さんの作詩になる「馬」も加えました。茶木さんの作 詩では中田喜直さんの童謡「めがかの学校」がよく歌われていますが、この 「馬」は1940年に書いた詩としてとても意義があります。日中戦争がつづき、 その翌年には第二次世界大戦へ突入した時代でもありました。日本中の農家 の馬も人間と同じように軍馬となって戦地へ徴用されたのです。『馬は夢み た 田舎のことを 田んぼたがやす 夢みて死んだ』この最後のことばに感 動して一気呵成に作曲しました。乗馬は昔よくやりましたが、馬はほんとに かわいい動物ですね。

 伊藤比呂美さんの現代口語訳『読み解き 般若心経』( 朝日新聞出版 ) を 読んで感動し、すぐに作曲に着手しました。そのなかから4篇をえらび、混 声合唱組曲、口語訳による「讃偈鈔」というタイトルで、マザーアースから 上記の2冊につづいて出版していただきました。

 私は子供の頃から法華篤信の家庭に育ちましたので、法華経には親しんで いました。その後宮澤賢治の研究をするようになってからとても参考になり ました。また諸宗の経文にも折に触れて独学していました。たとえば華厳経 などは種田山頭火の作曲のときに勉強しましたが、こころが洗われる思いが しました。先日兄からいただいた本に「日本語の法華経」という一冊があり、 昭和19年発行、著者は江南文三という方で、高村光太郎さんの文が巻頭を飾 っています。この口語訳もぐっとくだけた調子でわかりやすく、たしかに名 訳といえるでしょう。あの熾烈な戦時下に、泰然として法華経全28品の口語 訳に没頭されていたひともいたのです。たとえどんな状況におかれても、迷 いのない生き方をしている人には地獄もかんじないということですね。 『衆生見劫尽 大火所焼時 我此土安穏 天人常充満 園林諸堂閣…』 これは私が空襲の大火に包まれたときにしぜんと唱えた偈で、迷信だと云う かもしれませんが、ふしぎと安穏の気持ちになったことを覚えています。 法華経はじつに壮大なドラマです。今度は江南さんの名訳を曲にしたいとお もっています。
                         

以上

 中村節也

 

◆あたらしい作曲教室開講NEW!

 わずか数名を対象にした小さな作曲教室を開講することになりました。なにか楽器をやっている方、または声楽やコーラスなどをしている方で、多少でも読譜力のある方でしたらすぐに慣れるでしょう。  長い間ハーモニーなど教えてきた経験を活かして、今回は短期間で着実に、しかも本格的な作曲が身につくカリキュラムで行こうと思います。  この教室の特色は従来の三和音機能和声のみに偏向することなく、現代の音楽のさまざまな技法や、日本の伝統音楽まで研究するように努めています。また編曲法、楽曲のアナリーゼなども併行して学習するようにしています。  当教室は「教える」ということではなく、一緒に学び、一緒に考えてゆくような実りのある楽しい場にしたいと思っています。  月2回で第2・4土曜日、午後5時半から2時間、ただし申込み順数名の限定です。 皆様とのあたらしい出会いの一歩となりますよう、メールをくだされば詳細をご連絡します。

木菟舎( モクトシャ )作曲の会   中村節也
setsuya-nakamura@ac.auone-net.jp

 

◆賢治さんの2曲をCD NEW!

 渡部 宏さんは、田園ホールの「エローラのゴーシュ」というコンサートで、毎年賢治作品をとりあげているすばらしいチェリストです。渡部さんは岩手の出身で、賢治さんの音楽について詳しく研究しておられ、トークを交えた演奏は定評があります。

 今回発売されたCD『黒鳥の歌〜チェロ作品集』には、私の編曲した賢治さんの2曲が収録されています。1曲は誰でも知っている『星めぐりの歌』、あとの1曲は農学校時代に発表したオペレッタ「饑餓陣営」(バナナン大将)の劇中歌、『饑餓陣営のたそがれのなか』です。この曲はあまり知られていませんがとても優美なメロディで、渡部さんの物語るような演奏には心が洗われる思いです。ピアノはティモシー・ボザース氏、
 内容曲目は、ヴィラ=ロボス:黒鳥の歌/チャイコフスキー:感傷的なワルツ/ドヴォルジャーク:わが母の教えたまいし歌 /ピアソラ:オブリヴィオン/など10曲のほか、東日本大震災復興支援の思いをこめて、被災三県の岩手・宮城・福島の民謡もとりあげた全15曲の小品集です。

 販売元: マイスター・ミュージック/品番: MM-2137/JANコード: 4944099213735

 

◆椿弦楽四重奏団のこと NEW!

今年の賢治祭の日にも、賢治碑のまえで演奏した椿弦楽四重奏団の日原行隆さんは、伊豆大島で椿油の製造・販売をされている株式会社「椿」の社長さんです。賢治記念館に展示してある賢治さん設計のユニークな四重奏用譜面台を、特別に許可をいただいて複製、賢治さんの精神を今後の芸術活動に向けて励んでいます。会社の社訓も『雨ニモマケズ』です。ちなみに伊豆大島は、賢治さんが友人の伊藤七雄氏を訪れたゆかりの土地でもありました。

 東日本大震災で気仙沼市はむろんのこと、気仙沼大島で椿油を製造している三作浜農園でも津波で搾油機を流されたことを聞き、日原さんはさっそく搾油機を送ったとのこと、これも賢治さんの精神と感動しました。そんなことがきっかけとなって日原さんにお会いすることになりました。私は椿弦楽四重奏団のために、2曲の弦楽四重奏曲を書いてお贈りしました。作曲家としてはこんなことくらいしか協力できないのです。

 気仙沼は私にとってもゆかりがある土地ですし、気仙沼大島にも二度ばかり行き、『大島子守唄』を作詞作曲して、地元の女声コーラスで歌っていただいたこともありました。

(中村節也)

プロフィール

 東京生まれ、ヴァイオリンを小西市朗氏に、合唱理論を津川主一氏に、和声を弘田龍太郎、作曲と対位法を貴島清彦両氏に師事、YMCA芸術園、基督教音楽学校に学ぶ。NHK教育番組の『マイクの旅』の音楽担当を手始めに作曲に専念、コンセール・エフ入選、日本音楽コンクール作曲部門第一位入賞、九州ギター現代音楽祭優秀作 (2回入賞) 。文化庁舞台創作芸術奨励賞など、所属団体は宮沢賢治学会、作曲塾「木曜会」主宰など。

 少年期より星の美に憧れ、野尻抱影先生を敬愛し、のちに星の弟子として許されました。雀百まで踊りを忘れずといいますが、天文趣味はいまも変わらず天体望遠鏡を覗いています。戦時中ふと手に入れた『宮澤賢治名作選』に感銘して以来、賢治に関する「音楽」と「星」についての研究は現在もつづけています。
 
 教えを受けた諸先生をはじめ、先輩,友人知己は数えきれません。弘田ゆり子、ダン道子、榊原美祢子、井田一郎、塚谷晃弘、小原安正、高田三郎、山崎裕康、服部公一、柳沢剛、山田泉、石桁真礼生、内藤法美、越路吹雪、郷原吉太郎、郷原信郎、石田五郎、松村禎三、広瀬量平、岩間南平、石井好子、芦野宏、堀内環、朝倉まみ、渡部宏、原子朗、岩田安正、山口昭二、中村雪武、江尻栄、下野戸亜弓の諸氏、ほか大勢の方のご厚情はけっして忘れません。